2012/10/15

飴玉が溶けていくのを、

 
色の抜けた紫陽花が、ごろん と、歩道に落ちていた。


空気はツンと張りつめて、秋です。
あれれ、いつのまに。残暑がどうのこうのって。夏の雲は。あれれ。
「なんだか季節に置いてけぼりだ」と思いながら、ニット帽をひっぱり出した日。
花に心をトントンと叩かれたのだ。

雨は今にも降り出しそうで、服も靴も上手に決められなくて、不器用な午後。
駅まで小走りで向かう途中、道の真ん中、紫陽花が一房。
ごろん。
すっかり白く褪せているが、大きくてたくましい。
とても美しくて、ちょっぴり悲しげで、祭りのあとに似ている。
呼び止められるようにして、思わず、立ち止まる。
その光景に、すべてがあるような気がしたから。

しゃがみ込んで、指でふれた瞬間、「ああ、そっかぁ」と思った。
逃げていたんだ。ピエロみたいに。平気なふりをしていたんだ。
私が私に嘘をついて、どうするんだろう。
きれいな花になりたかった想いは、たいせつな様々を蹴とばして、そのまま凍結されようとしていたのだ。
ドライフラワーを望んだ。
くたびれないように、良好な状態で、記憶を封じ込めてしまおう。だなんて、
保守的で浅はかな道を選んでいたのだ。

自転車にひかれないように、誰かに踏まれないように、
花を安全な場所へと移して、また駅まで急ぐ。
ささやかで貴重な時間。


飴玉が溶けていくのを、まだ放っておけない。
だんだんしぼんでいって、唇にほんのり甘さが残る結末を、まだ望んでいない。
焦らずに、背伸びせず、しっかり向き合いたい。
花が教えてくれたこと。



BGM: Tenniscoats 「One Swan Swim」

1 件のコメント:

  1. 素敵な言葉たち。久しぶりに拝見してうれしい気分になれますね。夜も遅いけどもう一杯飲もうかな。

    返信削除