2012/03/13

プリズムと記憶旅行


北国にも、ふと、春の匂い。

画材とインクが切れてしまったので、せっかくのやわらかい天候な日曜日、買い出しと記憶旅行へ向かう事にした。



いつも足を運ぶ書房がある。
「ふきのとう書房」。
小学校の裏手に建ち、少し古びた外観で、親しみのあるお店。
下校時刻や休日になると子供たちで混み合い、店頭には小さな自転車が並ぶ、”町の文具屋さん”といったところ。
それこそ、私も小学生の頃、小銭を握りしめて しょっちゅう通っていた。
当時流行っていたロケット鉛筆や、ねりけし、交換ノート、わくわくしながら選んでいたのを覚えている。
この仕事をするようになって、この年齢になって、分かった事がある。
ここは穴場だ。
街中の大きな専門店ですら取り扱っていない厚口用紙や、スケッチブック、画材が破格で売られているのだ。

今日もお馴染みの品々をレジへ運び、
「あ。雑貨コーナー、ちょっとオシャレになってる。ふきのとうもオシャンティー化していくのか。」と、勝手に寂しくなっていると、
店員さんから、「今日でうち、30周年なんです。」と、粗品を頂いた。
咄嗟に出た「うわあ!おめでとうございますう!」と少しオーバーなリアクションに後悔しながらも、
凄いなあ、30周年かあ、と店を出る。
私が産まれるずっと前から営んでいたのだなあ。
小さなお客さんが、大きくなって再訪する未来、とても素敵だろう。
これからも、続いていってほしい。


ここからは、「記憶旅行」という名の、ただの徘徊だ。
まだまだコートとマフラーは手放せないけれど、空気が少しずつ、春へと近付いていくのがわかる。
根雪で白く覆われていた路面も、ここ数日で、随分とアスファルトが見えるまでに溶けた。
とても久しぶりに、母校の周辺、通学路を歩いてみる事にした。
思っていたよりも、変わっていない風景ばかりで、何だかホッとした。
”勇者の地図”なんてものを友達と作ってグルグル往来していた道、
「これを見つけたらパワーアップね!」という無茶なルールを定めていた実がなる木、
ヒュンッと越えた古い木の柵、
”夜になったらね、中から幽霊が出てくるんだよ" と怯えていた物置小屋。
いろいろな事を思い出すと、クスッと笑ってしまう。

けれど、変わってしまうものもある。
家族でよく通ったボーリング場は、あっという間に、大きなドラッグストアへ。
「二階の窓はお化けがいるから見ちゃいけない!」と言い伝えられ、目を伏せて歩いた倉庫街は、パチンコ屋さんへ。
いや、ものだけじゃないな、人も。
もうスニーカーじゃない、制服じゃない、泣き虫じゃない。
夢を見つけた、今はその途中、たどたどしいけれど。
ヒールのブーツを履いて、お化粧をして、カツカツと音を鳴らして歩く自分の影を見て、時間の経過を思う。


でもやっぱり、小さい頃から好きだったモノは、変わらない。
プリズム。
バッグに付けていたチャームのクリスタルパーツを手に取り、太陽へかざし、その光に見惚れた。

いつになっても愛すもの、思い返すもの、抱きしめるもの。
いつかは消えてしまうもの、手放す時が訪れるもの、忘れなくてはいけないもの。
それらの均衡を上手に汲み取れた日、きっと、またひとつ大きくなれる。
次の春も、また、この道を歩きに来よう。

2 件のコメント:

  1. こんにちは・・・
    懐かしさにかられて初めてコメントを残します。
    ちょうど30年・・・・その裏手の小学校に新卒のぴかぴかの新米教員として赴任しました。
    学生時代と生活がまったく変わり、青息吐息の毎日・・・ちょっと生活にゆとりができたときに、「ふきのとう」はもうそこにありました。ちょうど、うまれたばかりの「ふきのとう」にわたしは通うようになったわけですね・・・
    文房具・・・職場で必需品として配付はされていますが、若い女の子として、そういう文房具はつかいたくないわけで・・・ちょっとしたこだわりをもとめて、また子どものノートにつけてあげるシールなんかをみつけるためにいきました。30年という時をへて、歩いた軌跡がかさっている不思議な感じ・・・がしました。

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  2. >>ソフィーさん
    コメント、どうもありがとうございます。
    とっても嬉しいです。
    読んでいて、「あ!そうか、生徒だけではなく先生も足を運んでいたのか!」と気付きました。
    私がお世話になっていた先生も、いつも工夫に溢れていたノートや小物類、それらの素材を揃えに「ふきのとう」へ行っていた可能性を思うと、
    なんだかさらに愛着が湧いてきます。

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