「だって、そうなったらサヲリは、かなしいでしょう」と、
花のような彼女は、花のように泣いたのだ。
雨の日曜日。
"この日はこの子に捧げるぞ" と、前々から意気込んでいた。
だいすきな友人と過ごすには、どしゃ降りなど関係なく。
ダイヤが乱れたJRにも、泥水を跳ね上げやがった車にも負けず、鉄の心と愛と根性で待ち合わせをした。
彼女は花のような人で、
穏やかで、やわらかく、いつだって春をまとっているような人だ。
私はそのシルエットが大好きで、憧れるようにして見つめたり、柔和な愛の輪に甘えたりする。
わたしたちには特別な事なんて必要なくて、
たまたま見つけたお店でご飯を食べたり、
たまたま思い出したことをなぞってみたり、
たまたま遭遇した道を歩いてみたり、
ささやかでたくましい時間を、ゆうらり、過ごしている。
お洋服屋さんでこれはちがうあれもちがうぶーぶー言って、
雑貨屋さんできゅんきゅんときめいて、
大切な音楽を一緒に聴きに行ったあと、
おいしいご飯を食べながら、伝えたいことがワアッと、溢れ出る。
私はいつのまにか言葉を選んでしまっていて、「ああ ちがうのに」と感じながらも、文体にすることによって確立される "何か" から逃げて、
逃げて逃げて遠退いて、
恐怖に負けてしまって、上手に伝えることが出来なかった。
けれど、彼女には見えていた。
しっかり、心の根っこを、見つめてくれていた。
「でも、だって、そうなったらサヲリは、かなしいでしょう」と、涙を浮かべて。
守りたいひとを守れるちからは、
守りたいひとに守りたいと伝えるちからは、
時に魔法のように、難しく、まだ手の届かない術のように思うけれど、
こういうことなのだ と、感じた。
おそろいのネックレスを買った。
赤い粒が、ちいさくきらきらと光る、かわいらしいネックレス。
それはどこかこの夜に似ていて、「一緒だね」とにこにこ喜ぶ彼女の表情が宝石みたいで、大事にしようと誓った。
健やかな花を抱くようにして、日々をゆこう。