2012/09/10

健やかな花を抱くようにして


「だって、そうなったらサヲリは、かなしいでしょう」と、
花のような彼女は、花のように泣いたのだ。


雨の日曜日。
"この日はこの子に捧げるぞ" と、前々から意気込んでいた。
だいすきな友人と過ごすには、どしゃ降りなど関係なく。
ダイヤが乱れたJRにも、泥水を跳ね上げやがった車にも負けず、鉄の心と愛と根性で待ち合わせをした。

彼女は花のような人で、
穏やかで、やわらかく、いつだって春をまとっているような人だ。
私はそのシルエットが大好きで、憧れるようにして見つめたり、柔和な愛の輪に甘えたりする。
わたしたちには特別な事なんて必要なくて、
たまたま見つけたお店でご飯を食べたり、
たまたま思い出したことをなぞってみたり、
たまたま遭遇した道を歩いてみたり、
ささやかでたくましい時間を、ゆうらり、過ごしている。

お洋服屋さんでこれはちがうあれもちがうぶーぶー言って、
雑貨屋さんできゅんきゅんときめいて、
大切な音楽を一緒に聴きに行ったあと、
おいしいご飯を食べながら、伝えたいことがワアッと、溢れ出る。


私はいつのまにか言葉を選んでしまっていて、「ああ ちがうのに」と感じながらも、文体にすることによって確立される "何か" から逃げて、
逃げて逃げて遠退いて、
恐怖に負けてしまって、上手に伝えることが出来なかった。
けれど、彼女には見えていた。
しっかり、心の根っこを、見つめてくれていた。
「でも、だって、そうなったらサヲリは、かなしいでしょう」と、涙を浮かべて。

守りたいひとを守れるちからは、
守りたいひとに守りたいと伝えるちからは、
時に魔法のように、難しく、まだ手の届かない術のように思うけれど、
こういうことなのだ と、感じた。


おそろいのネックレスを買った。
赤い粒が、ちいさくきらきらと光る、かわいらしいネックレス。
それはどこかこの夜に似ていて、「一緒だね」とにこにこ喜ぶ彼女の表情が宝石みたいで、大事にしようと誓った。

健やかな花を抱くようにして、日々をゆこう。

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