2011/10/01

テニスコーツと秋の川


土曜日、秋口、正午過ぎ。
川へ。

画材と紙を購入し、近所の書房から帰宅した後、
ふと、テニスコーツ「ひこうき(-0)」の歌詞が頭に浮かんだ。
”記憶の隙間を ラクダと渡る 彼方のメリーゴーランド まあるく回りだす”
なんだか、そんな気分だ。
太陽は照っているのに雨がぱらぱらと降る、いちばん好きな天気だったし、
少々パッツパツに詰まった脳内を整理したかったし、
記憶の隙間をラクダと渡りたかったし、
彼方のメリーゴーランドもまあるく回したかった。
荷物を玄関にトンと置き、くるりとターンをし、すぐに家を出た。


歩き始めてすぐに、雨が上がった。
鳴呼、天気雨。
月球さんの「狐の嫁入り」でも聴きながらいこうか、とも思ったけれど、
ここはやはり、テニスコーツ「ひこうき(-0)」を再生した。

15分ほどで、川へ着いた。

ちょうど今取り組んでいるプロジェクトでは責任ある立場なので、
ピンと張った気持ちの糸を、少しだけ、緩めてあげようと思い、
普段は通り過ぎるだけでなかなか歩かない場所を、巡ってみる事にした。

川を囲むようにして、たくさんの緑が茂っている。
小道へと続く降下階段の先にある水たまりには空が映っていて、
雲に近付いていくような光景だった。
遠くに見える電波塔を見て、「あー、あの下を歩くとビリビリ聞こえて怖いんだよなあ」とか、
犬の散歩をしていたオジサンの靴下が蛍光イエローで、「交通安全の旗の色って、こういう色だったかなあ」とか、
小学生くらいの男の子が自転車に乗って通過し、「私が小学生の頃は、ローラーブレード一色だったなあ。今は見かけないな、ローラーブレード。けっこう好きな響きだな、ローラーブレード」とか、
どうでもよい事ばかりを、ただただ考えていた。
けれど、水に浮いているように、頭の中を日常に委ねきったのは久しぶりだ。
こういう日も、大切にしてあげようと思った。

川の流れる音が、気持ち良い。
以前、散文詩を読んでくれた人から「水のような質感だね」と言葉をもらった事があった。
その時初めて、”ああ そういえば私は水が好きだ”と気が付いた。
川の音、海の音、コップに注がれる音、水滴が垂れる音、それらに夢中になったりする。
前世だとか占いだとか、そういうものはよく分からないけれど、
魂がここまで継がれてきたのならば、魚だったりして。
どうせなら、シーラカンスがいいな。世界の、深海の御局。
ああ、またくだらない事を考えている。

雨の乾いたベンチに座り、
「眠くなってきたなー、んー、陽光さんめー」とウトウトしていたら、
後方から”ヴィィィィィーン!”という激しい音。一瞬にして眠気が吹っ飛んだ。
見てみると、トラックから続々と降りてくるおばさま達が、なんとも豪快な素振りで草刈り機をグングン動かしている。
同時に、こちらへ香る草のにおい。そして、おばさまの視線。
会釈をし、川から去る私。


帰り道も脳内は”どうでもよい事スイッチ”が作動し、
何年か前に頻繁にテレビで見かけていた、ワッキーのギャグで頭がいっぱいだった。
(あの、ヴィーンと言いながら手先をフリフリするやつ)

私には、女の子女の子した”エステにいってきたの”だとか、
”安くて良いネイルサロンにいってきたの”よりも、
こんなふうに、川でのんびーりするほうが合っているのかもしれないな。
キャピキャピしている友人に、”静かで緑に囲まれた川があるんだけど、どう?ホットペッパーとか要らないからさあ”って言ってみようかな。


やはり、自然の緑はきれいだ。
嬉しい事に、この頃はデザイン制作をいくつかさせて頂いているけれど、
CMYK、RGB、露光、解像度。
目がチカチカしちゃうくらいにソフトを使用している。
雨粒をのせて、太陽で優しく光る草や木の緑に触れていると、「かなわないよ」と言いたくなった。

また来よう。
草刈りが落ち着いた頃に。

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